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法 話
☆☆
【 私の如是我聞 】
第54回
損な人生?*
生死
(
しょうじ
)
いづべき道
更新
平成28年2月
最近、気になる言葉に、「損な性格」「損な役割」などという言葉があります。
「あんな損な役回りを引き受けてしまうなんて、まったく損な性格だよなあ」という具合に、仕事帰りの
盛
(
さか
)
り場で交わされる会話では大流行のようです。
そして、そんな会話の締めくくりは、
「どうせたった一度の人生なのだから、自分の思い通りに生きなければ損だ」
という言葉です。
確かに、自分の周囲のいろいろな状況に気を遣い、ストレスを溜めている現代人の人間関係を思うと、「周りにばっかり 流されるのは、もうたくさんだ。これからは自分の思い通りに生きるぞ」というような、ある種の開き直りが必要なのかもしれません。
しかし、「思い通りに生きなければ損だ」という言葉に何か
空
(
むな
)
しいものを感じるのは私だけでしょうか。
「こんなふうに生きれば損だ」けれども、「あんなふうに生きれば得だ」というのは、自分の人生を損得で
勘定
(
かんじょう
)
しているように思えてなりません。
確かに、人生において「損か得か」「自分に役に立つか立たないか」「楽か
辛
(
つら
)
いか」 という尺度は必要でしょう。
それがなければ生活していけないともいえるでしょう。
けれども、それしか私の生命を燃焼するための基準がないというのは、いかがなものでしょうか?
また、そこには、自分の生命を自分が所有する自分だけのものとしてしか考えられない
傲慢
(
ごうまん
)
な態度が見え隠れしています。
生命の問題を自分の損得に置き換えて判定するのは、生命を私だけのものと考えている証拠ではないでしょうか?
自分の生命は、言うまでもなく、あらゆる生命によって成り立っているのです。
毎日の食生活を振り返れば
一目瞭然
(
いちもくりょうぜん
)
です。
だからこそ、生命を「いただきます」と
合掌
(
がっしょう
)
するのでしょう。
私の生命だけではありません。どんな生命でも、それ一つが独立して存在する生命というものはありません。
それゆえ、私の生命は無量の生命によって成り立っていると言われるのです。
にもかかわらず、私だけの生命だと思い上っているから、「損だ」「得だ」などということになるのです。
生命に損得はありません。
あるとすれば、「尊く生きたか」「
無駄
(
むだ
)
に生きたか」 ではないでしょうか?
その基準から見れば、自分に利益になることのみを選んで行い、楽をして生きることを考えて過ごし、ずいぶん得をした人生であったとしても、 自分の人生を無駄に生きたということもあり得ます。
損をしたり思い通りにならなかったことが、無駄に生きたということではありません。
せっかく無量の生命をいただきながら、しかもその生命は仏さまになるようにと願われた生命であることに気づこうともせず、これは私だけの生命と 思って過ごすことを、ただ無駄に
費
(
つい
)
やしたというのです。
無量の生命をいただいている私だからこそ、「自分だけが」という思いを超えた清らかな世界に導かれなければなりません。
それでこそ、尊く生きたと言えるでしょう。私だけの生命ではなかったという新しい生命世界に導かれることがお念仏の世界です。
※『ひらがな真宗』本願寺出版社 定価:\756(本体\700+税) 電話 075-371-4171
最近、「仏教の言葉がむずかしい」「漢字が多くてどうも」という若い方の声や、「高校生や中学生にもわかりやすく真宗のご法話をしたいが」 という年輩方の声をよく耳にします。
※本書は、『ひらがな真宗』の題が示すとおり、まさにその声にこたえるべき待ち望まれていた書です。
「
名号
(
みょうごう
)
」 「
本願
(
ほんがん
)
」 「
浄土
(
じょうど
)
」 「
他力
(
たりき
)
」といった真宗の用語を、その用語のしめす雰囲気でわかったつもりで使うのでなく、 専門的な言葉を使わずに説明したり、ご法話するすることは簡単なことではありません。
また、せっかくわかりやすくと思っても、やさしい言い回しにとらわれすぎて、真宗の教えの真意がうすれてしまっては意味がありません。
その点でも本書は、実にすぐれた書であるといえます。
若い方にもわかりやすく、日常生活の中の身近な話題をピックアップしていて、肩の力を抜いて読むことができます。
それでいて温もりのある、心にひびく文章には、こども会を続けてこられた森田氏【森田 真円氏】のお人柄があふれているような気がします。
一九九九年十二月
東光 爾英 【『ひらがな真宗』「はじめに」より抜粋】
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