《 聖典の講座 》
 
『無常迅速 生死の事大なり』

     
第128回 女性のための正信偈しょうしんげ
法然上人ほうねんしょうにんの教え【1】」
更新 2022年4月

 31 法然上人ほうねんしょうにんの教え【1】
 

 「本師源空明仏教ほんしげんくうみょうぶっきょう
【本師源空は仏教にあきらかにして】
 「憐愍善悪凡夫人れんみんぜんあくぼんぶにん
【善悪の凡夫人を憐愍せしむ】
 「真宗教証興片州しんしゅうきょうしょうこうへんしゅう
【真宗の教証 片州におこす】
 「選択本願弘悪世せんじゃくほんがんぐあくせ
【選択本願 悪世にひろむ】


  法然上人ほうねんしょうにん 【1133~1212】は、 美作みまさか【岡山県】の久米【くめ】というところでお生まれになりました。
 地方の豪族であった父・ 漆間時国うるまときくには、上人九歳のとき、かねて不和であった 明石定明あかしさだあきに殺されました。
 枕元まくらもとの幼い上人に語られた父の遺言は、「敵を うらんだり 復讐ふくしゅうしようなどということは考えるな。
  復讐ふくしゅうすれば、また 報復ほうふくされ、それが次々に続き、終わらない。
 それよりも、お前は一時も早く出家して、この父のすくわれていく道、自らのすくわれていく道を求めよ」と、 いうものでありました。

 上人は、父の遺言にしたがって出家し、十五歳の時に 比叡ひえいの山に登り、天台宗の教義をはじめ、 法相宗ほっそうしゅう・三論宗・ 華厳宗けごんしゅうの教えを幅広く学ばれました。

 しかし、それらでは満足できず、一切経を五回も読まれました。
 そして、源信和尚の『往生要集』の「私のような頭のかたい愚かなものは、念仏に る以外にすくわれる道がない」という 序文じょぶんに目をひかれ、さらに、善導大師の

 一心に弥陀の名号を専念して、 行住坐臥ぎょうじゅうざが時節じせつ久遠くごんを問はず、念々に捨てざる者をば、 これ
正定之業しょうじょうのごう」と なづく、 の仏願に順ずるが ゆえに。
 
 のお言葉にであい、法然上人は、「自らすくわれていく道が、ここにあった」とよろこばれたのです。

 「阿弥陀如来の本願の名号を となえる一つで、間違いなくお浄土に生まれることができる」とおっしゃった、この善導大師の お言葉によって、法然上人は、浄土教の独立をなしとげられたのです。

 「念仏一つで」と、やさしく説かれる法然上人のもとに、今まで仏教に近づけなかった人たちをはじめ、多くの人びとが集まりました。

 「念仏一つで、他のすべての善も行も不要である」と説かれる法然上人の教えに対し、万善・万行をすすめる既成の宗派から非難がおこり、法然上人 七十五歳、親鸞聖人三十五歳の時、 念仏停止ねんぶつちょうじ宣旨せんじ下り、上人は四国に、聖人は越後【新潟】に 流罪るざいになりました。
 
 七十九歳で京都にもどられた法然上人は、念仏をよろこぶ多くの人たちに囲まれて、 波瀾はらんに富んだ八十年の生涯を終えられました。
 
 
 著書としては、


 すみやかに生死を離れんと おもはば、二種の 勝法しょうぼうの中、 しばら聖道門しょうどうもんさしおきて、選びて浄土門に入れ、浄土門に入らんと おもはば、 正・雑しょう ぞう二行の中、 しばらもろもろ雑行ぞうぎょうなげすてて、選びて 正行しょうぎょうに帰す し、正行を修せんと おもはば、正・助 二業にごうの中、 猶助業なおじょごうかたわらにして選びて正定を もっぱらにす し、「正定之業」とは、 すなわれ仏の名を称するなり、名を称すれば必ず生ずることを得、仏の本願に るが故なり。

 
 と、浄土教の真のあり方を明らかにしてくださった
選択本願念仏集せんじゃくほんがんねんぶつしゅう』があります。
 
 
 日本浄土教の元祖と仰がれる法然上人は、他人のよしあしばかり論じ、自分自身を見失ってウロウロしている愚かな私たちに胸をいため、悲しみあわれんで、 私たちがすくわれる真実の教え、すなわち阿弥陀如来の本願をこの日本の国に ひろめてくださったのです。

   選択本願せんじゃくほんがんとは、広くは四十八願のことですが、ここでは第十八の願をさします。

 第十八の願は
 
 もし、わたくしが仏になるとき、あらゆる人々が 至心まごころから 【至心ししん】信じ喜び 【信楽しんぎょう往生安堵おうじょうあんどおもいより 【欲生よくしょう】、ただ念仏して 【乃至十念ないしじゅうねん】、
そしてわたくしの国に生まれることができぬようなら、わたくしは 決してさとりを開きません。
 ただし、五逆の罪を犯したり、正法を そしったりするものだけは除かれます。
 

 という、阿弥陀如来の変わることのない、確かなお心をよりどころに、念仏をよろこんで生きるだけで、間違いなくお浄土まで生き抜かせる。
 
 という、 誓願せいがんといただいています。

 法然上人は、この第十八の願を 五濁悪世ごじょくあくせに生きる私たちに、生命がけで広めてくださったのです。
 法然上人のこの御苦労によって、私たちのような、他人のことばかり気にして、自分がお留守になりやすい人間のすくわれていく道が明らかになったのです。

 親鸞聖人は、このことをよろこばれて、
高僧和讃こうそうわさん』では、
 
 
 智慧光のちからより
 本師源空あらはれて
 浄土真宗じょうどしんしゅうひらきつつ
 選択本願せんじゃくほんがんのべたまふ

 
  善導・源信ぜんどう げんしんすすむとも
  片州濁世へんしゅうじょくせのともがらは
  いかでか真宗をさとらまし
 
 曠劫多生こうごうたしょうのあいだにも
 出離しゅつり強縁ごうえんしらざりき
 本師源空ほんしげんくういまさずば
 このたびむなしくすぎなまし

 
 と、たたえられるのです。
 



※『女性のための正信偈しょうしんげ』 
    藤田徹文ふじたてつぶん
本願寺出版社
電話 075-371-4171
 

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